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    かけはし2021年4月19日号

コラム架橋


 落とし穴

  想定外のでき事だった。決してあってはならないことだがあり得る事だ。その可能性を承知しておくことは個人宅配で生活するためには必要不可欠だ。私の個配歴はすでに5年を超えた。今や個配は生活の中心軸となっている。
 腰痛に始まりやがて腰椎を圧迫骨折し様々な買い物ができなくなってしまった。以来個配生活をよぎなくされている。最近は大腿骨骨折の危険性にさらされてもいる。それでも主食に関するものは可能な限り自分で調理するようにしている。
 個配では主食類に関する食料品は圧倒的に冷凍食品が多い。冷凍技術の飛躍的な発展によって冷凍食品に対するある種の「安全神話」的なものが生まれつつある。私はそうだった。そこに「落とし穴」がある。
 ある朝突然下痢に襲われた。トイレは間に合わなかった。腹は痛まなかったが下着はもちろん上着も汚してしまった。
 朝食を食べながら昨日食べた物を思い出していた。連れ合いとは共通しない物が二品あった。そのどちらかが下痢の原因に違いない。これで二度目だ。一度目はわずかに「賞味期限」をオーバーしていた。これくらいは大丈夫だろうと思っていた。
 今回は不可解だった。「賞味期限」も確かめた。冷凍前に加熱してあるのか否かも確認した。何がどう悪かったのだろうか。
 そもそも原材料に問題があったのか。それとも私の冷蔵庫の冷凍室の性能が低かったのか。解凍方法には冷蔵庫内自然解凍、流水による解凍、電子レンジを使った解凍等がある。解凍不十分という手ぬかりがあったのか。
 調理の方法も電子レンジ、湯せん、フライパン、オーブン、トースター等がある。そもそも私の調理の能力に問題があるのだろうか。
 個別の商品にはそれぞれ解凍や調理の方法が説明されている。
 だが同じ商品であっても大小、形状や重量等が違い同一のものはほとんど無いといっても良い。説明はあくまで大枠でしかない。したがってそれぞれ解凍や調理に要する時間も方法も違ってくる。
 当然商品に問題があるケースもある。だがそれを証明するのは個人では極めて困難だ。同時に調理する側の能力も関係する。失敗から学ぶことは重要であり、味覚もそうだ。自分に合う味か否かは大事なことだ。合わなければ味を作り変えなければならない。まさに経験則が必要となる。
 今回の「下痢」問題で私ははからずも自らを顧みる機会を得た。だが様々な事態に対処できる能力をわずかでも強化できたかどうかはわからない。
 「落とし穴」はどこにでも存在する。落ちるか否かは主体的な問題だ。落ちることを恐れていては問題を見きわめる能力を強化することはできない。「落とし穴」は落ちてみないとわからない。 (灘)
 



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